『呉書・三国志@ 将の巻 ―孫堅伝  定価:880円(著者:斉藤 洋 出版:講談社)

『呉書・三国志』は、呉を建国した孫家三代…つまり孫堅・孫策・孫権を主役に書かれた作品です。
全三巻の一巻目であるこの作品は、孫堅さんを主役に書かれています。

下[丕β]県の丞・孫堅は、各地で暴れる黄巾賊退治のため、朝廷からの命令を受けて、
程普・黄蓋ら仲間と共に兵を挙げた。途中、弓の名手の韓当も加え、一行は朝廷軍と合流するため
兵の鍛錬を重ねつつ、豫州汝南郡を目指す。汝南では特に黄巾賊が暴れ回っていたからだ。
何十日かの進軍の末、ようやく汝南へ差しかかった孫堅らが見たものは、黄巾賊に襲われたばかりの
村の悲惨な光景…焼け落ちた家々、惨たらしく殺された村人達を目にし、怒りに燃えた孫堅は、
引き上げる賊の一隊を追撃し、恐るべき戦いぶりでこれを全滅させてしまう。
彼は悪を見過ごせない性格ゆえに、戦となると我を忘れ、敵を容赦なく叩き潰してしまうのだった。
戦場での状況判断や作戦には冷静に頭が働きながら、一方では怒りにまかせて敵を惨殺してしまう。
そんな自分の気性に悩みながらも、孫堅は仲間と力を合わせ、黄巾賊との戦いを続けて行く…。

この作品では、孫堅が黄巾賊討伐に出陣するところから、黄巾の乱鎮圧を経て、董卓討伐連合軍へ
参加、そして連合軍に見切りをつけて本拠の長沙に戻るまでが書かれています。
話の流れは正史(註釈含む)や演義に沿っているようです。
孫堅の母が見た夢の話(孫堅を身篭っている時、自分の腹から腸が飛び出して城門に巻きつく夢を
見た…というもの)、戦いの最中に負傷し気を失った孫堅のもとに、愛馬が味方を導いて主人の危機を
救った話など、正史註に見える話や、関羽が華雄を討ち取る話、孫堅らが玉璽を見つける話などの
演義のエピソードも幾つか盛り込まれていました。
さらに、そこにオリジナルのエピソードを交えて話が進められていきます。

この作品の孫堅は、自ら天下を取るなど望まず、ただ国と民の平和を願い、また不正や悪を放って
置けない性格と強さゆえに、反乱討伐を進んで成し遂げていく人物として書かれています。
結果的にその軍功によってどんどん出世していくが、彼自身は出世を望まず、地位が欲しいわけでも
ない。むしろ役人としての統治の仕事の方が、自分には向いていると思っている…。
私は孫堅に対し、朝廷のために戦う忠臣であると同時に、多かれ少なかれ天下へも野心を抱いている
人物とのイメージを持っておりますので、上記のような孫堅の人物像は意外で、新鮮でした。

孫堅が戦いに勝利し平和をもたらす喜びも書かれていますが、戦となると我を忘れる自分の性分
に悩んだり、結局は自分の利益のために動く連合軍の中で真面目に董卓討伐に尽力するのも
虚しくなったり…と、彼の苦悩もしっかり書き込まれています。
悩みつつ前へ進み、もたらした束の間の平和に心を楽しませる。
そんな彼の姿は人間的で親しみ易かったです。

孫堅を支える程普と黄蓋は、これまた個性的で魅力的でした!
戦になると人の変わる孫堅の悩みを理解しつつ、主君が必要以上に暴れないよう気遣ったり、
悪気は無いけど口を滑らす黄蓋をさり気なく注意したり、戦では作戦も立てるし、自ら戦いに力も
振るう。そんなしっかり者の程普さんは、孫堅一行の纏め役であり、一番の苦労人のようにも
思えます^^;

黄蓋さんは、ちょっと短気で大雑把だけど、根は優しくて力持ちな豪傑です。
鉄の鞭を用いて戦う凄腕の豪傑でありながら、その言動は可愛いと思える程で…例えば
孫堅と初めて対面する場面では、都の使者を締め上げて賊討伐への出陣命令を聞き出したくせに
「ああベラベラしゃべるのでは、都の役人の質も落ちた」と自分のことを棚にあげるし、
それで孫堅に怒られるのではないかとおどおどしたり、許して貰えてほっとしたりするなどなど…
所々で微笑ましい姿を見せてくれます。

もともと程普さん&黄蓋さんは顔見知りという設定のようで
「こいつは凄い暴れもので…」「お互い様だ!」等、二人の掛け合いも楽しいものです(^^
ちなみに韓当さんは、弓の腕で敵を倒す見せ場もありますが、それ以外ではちょっと影が薄いかも…
彼にも目立って欲しかったです^^;勿論、戦の後で、孫堅も交えて四人で互いの無事を喜ぶなど、
韓当も含めて仲間としての結束は強いですけれど。

後半では、祖茂が印象的でした。朝廷を牛耳る董卓に息巻き、勇んで董卓討伐に兵を挙げる
孫堅や諸将とは対照的に、董卓討伐連合軍は私欲を図る者ばかりで、その中で戦う無意味さを
知っている…そんな冷静さを見せる祖茂。それでも主君に従って戦い、最期には自ら主君の身代わり
となって死ぬことを選んだ忠義な祖茂…その最期の場面には悲哀が漂っておりました。
首をとられた彼の遺体を抱え、涙を流して彼の死を悼む孫堅の姿は痛ましかったです…。
この作品は児童書とはいえ、このように戦闘描写もはっきりと書かれていますし、また別部司馬など
官職名や固有の言葉も、別の簡単な言葉に差しかえられることなく、そのまま使われています。
だからこそ歴史物としての雰囲気も味わえ、この書かれた方には、私は好印象を持ちました。

文章は全体的に平易で読みやすく、話もテンポ良く読み進められました。三国志物としても読み物と
しても面白い良作ですので、現在では入手困難なのが悲しいです…。
呉ファンとして呉が主役の作品は貴重ですし、挿絵を描かれているのが漫画家のモンキーパンチさん
で、その点からも貴重な作品であると思います。復刊されることを望みます(>_<)

 

 

          (戻る)

 

 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送