『その日仙境に龍はおちて』  (著者:白井恵理子  出版:角川書店)

   ……『STOP 劉備くん!』の著者、白井恵理子さんの短編5編が収録されています。
      表題作は白井恵理子さんのデビュー作だそうです。短編5編のうち、「火蛾の楼閣」、
      「青龍飛翔異聞」「曼珠沙華哀恋歌」の3篇が三国志関連のお話です。
      「火蛾……」は曹操の子供時代の話、「青龍……」は董卓が権威をふるっている時の曹操が
      出てきます。「曼珠沙華……」は黄巾党の乱に関連したお話しです。

以下、詳しいストーリーの紹介です。


「その日仙境に龍はおちて」

人里離れた草堂で、師に学問を習い暮らしている胡龍達のもとに、ある日矢傷を負った少年兵が
迷い込んできた。戦で家族を失った胡龍は兵士が大嫌い。その傷では助からないと、冷たく少年兵を
無視しようとする。師に怒られて、仕方なく草堂に連れ帰ったものの、すでに少年兵は息絶えている様子。
翌朝に、さっさと埋めてしまおうと、胡龍は考えていた。
しかし翌朝、深手を負っているにも関わらず平然と水浴びしている兵士の姿を目の当たりにし、胡龍は
呆然とする。しかもその兵士は少年ではなく、志遠(しおん)と名乗る女性兵士であることが分かり…。

戦争嫌いな仙人の弟子・胡龍と、美人だけれども一見少年のように見え、男のような喋り方をする
女剣士・志遠の友情と、ちょっとした恋の描かれたお話です。恋の話といえるかどうかは、微妙なところなの
ですが(笑)昇龍剣という宝剣が出てきたり、タイトルに「龍」とある理由も話を読めば分かるのですが、
話のメインは、胡龍と志遠の関係に焦点が宛てられているように思えました。
項羽と劉邦の争っていた時期を舞台にしたお話で、白井恵理子さんのデビュー作だそうです。


「火蛾の楼閣」

予州・沛国の[言焦]県で、花嫁が数人の賊に誘拐され、かんざしを盗まれるという事件が起きた。
これで三件目にもなる花嫁誘拐事件を起こし、かんざしを盗んでいたのは、実は秀才と名高い少年・曹操
のしわざであった。幼くして母と別れた曹操は、思い出の中に残る、結婚式用のかんざしを身につけた
母の姿の面影を求めて、花嫁のかんざしを盗んでいたのだ。曹操の母は、子供まで生まれた婚約者
――曹操の父が金目当てに宦官の養子に入ったのを蔑み、出て行ってしまっていたのである。

折しも、時の帝・霊帝は宦官のいいなりに動かされ、宮廷も政治も腐敗しきっていた時期。
金目当てに宦官になった祖父、その金目当てに養子に入った父を蔑む曹操は、灯に集まってくる火とり蛾
の姿に、金に群がる人々の姿を重ね合わせる。
そんな時、霊帝の後宮に新しい女性が入るという話を耳にした曹操は、その花嫁をさらう計画を立てるが…。

少年時代の曹操さんが主役の短編です。曹操さんが花嫁さらいをしたというエピソードをもとにして
いると思われますが、そこに曹操さんの、お母さんを慕う気持ちが絡められて描かれています。
お母さん想いの曹操さんの姿は、健気で涙を誘います…。
その他、腐敗した政治や利益に群がる人々のことなど、色々と考えさせられるテーマが
含まれているように思いました。

そして、花嫁さらいのエピソードといえば、袁紹さんの情けない(失礼!)姿が有名ですよね。
この話にも、曹操さんの幼馴染として袁紹さんがしっかりと出てきますが、何故か虫の標本や虫かごを
部屋にいっぱい飾っているような、虫好きな少年に描かれています。
四世三公の名家の子弟には見えませんが、純朴で可愛い少年・袁紹さんなので、私は密かに好きです(笑)でも、曹操さんに上手くあしらわれてしまう所は、この本の袁紹さんも変わらないようです。


「春華宵綺譚」

黄巾の乱が収まったばかりの、中国後漢末。医者の華宵は、学問塾で子供達に学問を教えたり、病人を
診るなどして、緑の瞳を持つ子・緑(りゅい)と二人で暮らしていた。
少年のように見える緑だが、実は女の子で、小鬼扱いされて村人に殺されそうになっていた所を
助けてくれた華宵に、密かに恋をしている。しかし華宵は、女難の相があるからということで、
生まれて間もなく女性から遠ざけられ、以来19年間、女性から遠ざかって育ったために、女性が大の苦手。
しかし、そんな女性恐怖症の華宵が、大きなお屋敷の美女の診察をすることになり、
緑は気が気でない。友人の剣士・隠者のアドバイスを受け、華宵が診ている女性がどんな人なのか
調べに行った緑が見たのは、骸骨の姿と化した女性の姿だった。女性が鬼人(幽霊)ということで
緑と隠者は、華宵が女性の屋敷に行くのを止めようとするが…。

後漢末を舞台にしたお話で、時代以外は三国志とは関連ないお話です。
瞳が緑の、少年のような少女・緑(りゅい)、女性恐怖症で美形の医者・華宵、隠者と呼ばれている若い
剣士の三人が話の中心になりますが、三人ともそれぞれ個性が強くて、そこもまた話の面白さに繋がって
います。それにしても、女難の相があるからと、女性と遠ざけて生活させるのは、如何なものかと
思いますが(^^;)女性に免疫が無いぶん、余計に女難に巻き込まれるのでは?などと考えてしまいました。
事実、華宵先生は女性恐怖症のせいで、色々な問題に巻き込まれてしまっていますし…。


「青龍飛翔異聞」

反乱討伐に赴く官軍(朝廷の軍)の行列を見物していた緑の猫が、行列の前に飛び出し、踏み潰されそうに
なるが、寸での所で助け出された。矛を投げて軍の進行を止め、猫を助けた軍の隊長の姿に、緑は強い
印象を受ける。病にかかった時の帝・献帝の診察をするため、華宵は緑とともに宮廷に赴くが、そこで緑は
猫を助けた隊長と再会した。その隊長は典軍校尉の、曹操という青年であった。帝の主治医として宮廷に
滞在するうちに華宵は、実権を握った董卓によって政治が牛耳られ、腐敗していく宮廷の現状を目にして
いく。

緑と華宵先生のお話の第二弾(?)です。でも、このお話の主役は曹操さんと言えるほど、曹操さんが
目立っています。冒頭に出てくる、矛を投げて行列を止め、猫を助ける曹操さんはクールで格好よいですしv
一見、腐敗した政治や、乱世を変えることに無関心に見えるクールな曹操さんですが、実は天下を狙う
力強い意思を持っていることが、董卓暗殺を試みる場面から分かります。
董卓の暗殺に失敗して逃げる最中であっても、途中で出会った華宵達に、笑って挨拶する余裕を持ち
合わせた冷静な曹操さんに、心惹かれました。董卓さんも、もちろん登場されていますが、同じ白井先生が
描かれた「STOP劉備くん」に出てくるような可愛い董卓さんではなく、ひげダルマな董卓さんらしい(?)
董卓さんに描かれていました(笑)


「曼珠沙華哀恋」

華宵達のもとに、傷ついた仲間を連れた黄巾党の兵士が訪ねてきた。
深手を負った仲間を見て欲しいというが、その兵士も傷を負っており、倒れてしまう。
少年兵と見えたその兵士は、未央と名乗る少女で、未央が助けようとした黄巾党の仲間は
黄巾党の乱の首謀者・張角の弟で、乱の首謀者の一人でもある張梁だった。
だが張梁は、華宵たちのところに担ぎこまれた時には、すでに息絶えており、
未央は、張梁を助けられなかった華宵に怒りを表す。張梁に想いを寄せる未央は、張梁について行きたい
がため、剣を取り黄巾賊として戦っていたのだった。
緑や華宵の心遣いに触れ、剣を捨て女として生きていこうとする未央だったが、そんな矢先に
張梁の首を挙げようとする官軍の隊が、華宵たちの住む村に押し寄せて来てしまう…。


黄巾党の側からの視点で、黄巾党の乱や黄巾の人々のことが描かれています。
私は黄巾党について、略奪を働く悪い賊だという印象しか持っていなかったのですが、
黄巾党の側にも色々な立場の人がいて、様々な事情や心情から、乱に加担していた
のではないかと、この本を読んで考えさせられました。
私に黄巾党側にも目を向けさせてくれた、初めての作品です。
張梁が曼珠沙華を好きだと言ったから、自分も毒花である曼珠沙華が好き…と告げる未央の
ひた向きに張梁を想う姿が心に響きました。張梁が、やけに格好良く描かれているのですよ、
この作品では。真・三国無双2で「馬鹿者どもがぁ〜」とか言いつつ、河を凍らせていた
張梁さんとは、似ても似つきません(笑)

         

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