呉軍は合肥の城を包囲した。

 それから十日が過ぎた。

 これ以上、包囲をしていても仕方ない。

 呂蒙にこれからのことを聞いた。

 すると、呂蒙は

 「撤退するべきかと思います。」

 と進言した。

 それを聞いて、孫権は考えた。

 そして、

 「撤退だ。」

 孫権はそう言った。

 「孫権さま。先発の部隊が出て行きました。」

 「うむ。」

 そう言って孫権はしばらく周りを見ていた。

 そのとき、背後から兵士の騒ぎ声が聞こえた。

 「張遼です。」

 そう言ったかと思うと、張遼が目の前の兵士を檄でなぎ倒す。

 それが今度は、孫権の上に降りかかってきた。

 孫権はすぐに剣を抜いて、それを受け止める。

 重い衝撃が孫権の肩に掛かってきた。

 「さすが、五名将の一人だ。」

 そう孫権は言った。

 すると、張遼も、

 「我が檄を受け止めるとは。」

 と言って檄を弾いた。

 孫権は弾かれた力を利用して背後にいる魏の兵士を斬る。

 それを見て張遼が、

 「惜しい男だが、もう逃げ場はない。」

 そう言われて、孫権は周りを見た。

 たくさんの魏の兵士に囲まれていた。

 孫権は心を決めると、

 「私は呉の君主。姓は孫。名は権。字は仲謀。怪我をしたい者だけかかって来い!」

 そう言って剣を構えた。

 向かってくる魏兵に剣を一閃と浴びせる。

 右手から槍が伸びてくる。

 孫権はそれを掴むと、その槍ごとを前に兵士に投げた。

 そして、左手の魏兵に蹴りを加えると、振り向きざまに剣を凪いだ。

 一連の行動が終わると、魏兵の動きが止まる。

 そのとき、

 「孫権さま!」

 そんな声が聞こえてきた。

 魏の兵士が倒されていく。

 凌統だった。

 凌統は血だらけだった。

 「傷は?」

 その姿を見て孫権はすぐに聞いた。

 だが、凌統は気にせずに、

 「大丈夫です!早くここから逃げてください。」

 と孫権に言った。

 「無理だ。そちを残して私だけが逃げるわけにはいかない!」

 「駄目です。呂蒙、韓当も駆けつけています。」

 「しかし。」

 それでも、孫権はしぶった。

 それを見て、凌統が、

 「この戦のために亡くなった者たちのためにも生きて生き延びなければなりませぬ!」

 そう叫んだ。

 その言葉に孫権は頷くと、

 「分かった。凌統。必ず、生きて戻って来い!!」

 孫権はそう言うと、馬を走らせた。

 見ると、橋が落ちている。

 「行くぞ!」

 孫権はそのまま、馬を走らせた。

 そして、橋の手前まで来ると、一気に飛んだ。

 その姿を見ると、凌統は微笑んだ。

 「何がおかしい?勝てると思っているか?」

 「いや、オレの役目は孫権さまを無事に逃がすことだけ。お前も将軍という地位を
  持つ者ならば分かることだろう。」

 「ならば、ここで死ぬがいい。」

 張遼がそう言って檄を振り回した。

 そのとき、孫権の、

 『必ず生きて戻って来い!』

 その声が凌統の中に浮かび上がった。

 凌統は槍で張遼の技を防いだ。

 「オレはまだ、死なぬ。」

 傷からたくさんの血が流れている。

 ふと、川が見えた。

 その隙を見て魏兵の一人が凌統に飛び掛ってきた。

 それを振り向きざまに一閃で斬る。

 その間を抜けて、凌統はそのまま、川沿いを走った。

 川沿いにいた兵士の槍を飛び越えて、凌統は川に飛び込んだ。

 弓が飛んできた。

 凌統は深く潜った。

 鎧が重い。

 だが、主公の言葉が胸に残っていた。

 『生きなければなりませぬ。』

 そう言ったからには自分も生きねばならぬ。

 そう言うと、凌統はそのまま、潜水をしていった。

 そして、矢が届かないところまで来ると浮上した。

 そこを呉の兵士に見つけられる。

 そこで凌統は気を失った。

 



 凌統は目を開けた。

 呉の船に乗せられていた。

 近くの兵士に、

 「オレの近習を見なかったか?」

 と聞くと、兵士は悲しそうな顔をして、

 「誰も戻ってきていません。」

 と言った。

 その言葉に凌統は悲しみに落ち込んだ。

 「すまない。」

 それだけしか言えなかった。

 「よく生きて戻ってきた。」

 見上げると、孫権だった。

 凌統はひざまずいた。

 そして、凌統は、

 「私の力がないばかりに近習を全て、失ってしまいました。」

 と孫権に言った。

 「そうか…。それは、とても残念だった。」

 そう言って凌統の涙を拭いてくれた。

 その行動が更に凌統の涙を溢れさせた。

 それを見て、孫権は、

 「悲しいが、死んだ者は帰ってこない。だが、凌統、お前は生きている。」

 と言った。

 凌統は何も言えなかった。

 そこに孫権が言葉を続けた。

 「生きている限り、まだ、闘いに終わりはない。民が平和に暮らせるまで私たちに
  終わりはない。」

 「はい…。」

 凌統はただ、返事をした。

 「あのとき、お前は、生き抜け!亡くなった者たちのために!お前はそう言ってく
  れたではないか。」

 そう言うと、孫権は凌統の手を力強く握り締めた。

 「今日負けたら、明日勝てばいい。生きている限り、何度でも立ち上がるのだ。民
  のために。そして、亡くなった者たちのために。」

 孫権がそう言うと、凌統は泣いて頷いた。


↑keisukeさんから頂きました。合肥の戦いを題材に書いて下さいましたが、主君然とした
  孫権さん、何とも力強くて格好良いです。主君を守ろうとする凌統さんの、亡くなった者の
  ためにも生きねばという言葉に力づけられる孫権さん。そして嘆き悲しむ凌統さんにその
  言葉を告げて、逆に彼を励ます孫権さん…凌統さんとの信頼関係・強い君臣関係も
  伝わって来ます。戦に負けても、何度でも前に進もうとする前向きな彼らの姿に希望が
  感じられ、また励まされる心地もします。素敵な作品をありがとうございました。

 

 

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